グルメ

東京をパリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンと並ぶファッション拠点に――東京都が若手デザイナーを支援する「パリ・ファッションショー」挑戦プロジェクト報告会レポート

東京都は、都内在住・在学の学生等を対象としたファッションコンクール「Next Fashion Designer of Tokyo(以下、NFDT)」および「Sustainable Fashion Design Award(以下、SFDA)」を実施し、その受賞者を対象にフランス・パリでのファッションショー挑戦を支援するプロジェクト「東京都若手デザイナー『パリ・ファッションショー』挑戦プロジェクト」を展開しています。

このたび、2023年度の受賞者たちが約半年の準備期間を経て、2026年1月25日(日)、パリ16区にある現代美術館「Palais de Tokyo(パレ・ド・トーキョー)」にてファッションショーを開催。若き才能たちが世界最高峰の舞台で、新作を含む全75ルックを発表しました。

そして帰国後の2026年2月10日(火)、東京・南青山のPASONA SQUAREにてメディア向けプロジェクト報告会が開催されました。

この記事では、ショーの監修を務めた「ANREALAGE(アンリアレイジ)」の森永邦彦氏による解説や、実際にパリのランウェイを経験した3組の若手デザイナーによる座談会の模様をレポートします。

「世界で活躍できるブランド」を東京から

報告会の冒頭、主催者である東京都 産業労働局 商工部 経営支援課の左古将典担当課長が登壇し、本プロジェクトの趣旨を説明しました。

東京都 産業労働局 商工部 経営支援課 担当課長 左古将典氏

「我々東京都は、東京をパリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークと肩を並べるファッション拠点にしていきたいと考えており、そのためにファッション産業の振興に取り組んでいます」と左古氏。

本プロジェクトは、コンクール(NFDT/SFDA)での受賞、翌年度のブランド立ち上げ支援を経て、さらにその翌年にパリで作品を発表するという3カ年計画の集大成にあたります。パリでの発表は今回が2回目。

左古氏は「今回はアンリアレイジの森永さんをはじめ、世界で活躍する第一線の方にご協力いただき、デザイナーたちの個性を引き立てていただきました。本当に素晴らしいショーでした」と、13組14名の若手デザイナーが挑んだ舞台を振り返りました。

森永邦彦氏が語る「パリで戦うための武器」と「内なる世界」

続いて、本プロジェクトの監修を務めた「ANREALAGE」デザイナーの森永邦彦氏が登壇。自身もパリ・ファッション・ウィークで12年間発表を続けている経験から、若手デザイナーたちに「世界最高峰の現場」を共有したかったと語ります。

「ANREALAGE」代表取締役社長・デザイナー 森永邦彦氏

「今のパリ・ファッション・ウィークは、世界で一番多くのブランドとプロが集まって表現で戦っている場。そのハイレベルなポジションを今のうちから肌で感じてほしかった」

森永氏は渡航前の約半年間、計5回にわたるワークショップを実施。「ショーで何を伝えるか」という根源的な問いかけから始まり、価格設定とショールームへの接続、チーム編成、そして実地でのモデルフィッティングまで、徹底的な指導を行いました。

コンセプトは「A WORLDS(ア・ワールズ)」

森永氏が今回のショーのために掲げたコンセプトは「A WORLDS」。
「パリという外側の世界(THE WORLD)で戦うことになりますが、外の世界が広がれば広がるほど、実は自分の内側にある地図も広がっていく。外の世界に向けて、自分の内側にある世界を発信してほしい」

そんな思いを込め、世界は一つではないという「WORLDS」と不定冠詞「A」を組み合わせた造語を冠し、2つの世界が溶け合うようなロゴも制作されました。

世界トップレベルのチーム編成

特筆すべきは、若手デザイナーたちを支えた制作チームの豪華さです。PRにはLVMHやThe Rowなども手掛けるコンサルティング会社出身者を、演出には現在のパリにおける日本ブランド(オーラリー、コムデギャルソン等)のショーを数多く手掛ける金子繁孝事務所を起用。ヘアメイクは資生堂のトップクリエイター計良宏文氏、プロダクションにはパリのショーの半数近くを扱う大手「アイサイト」が入るなど、まさに「本物」の布陣で挑みました。

ショー会場となった「パレ・ド・トーキョー」には、立見を含め350名以上のバイヤーやメディア関係者が来場。WWDやVOGUE FRANCEといったグローバルメディアに加え、LVMHのメティエダールのディレクターなども姿を見せました。
森永氏は「13組それぞれが自分の内側にある世界をしっかり表現し、言語を超えて伝わっていた」と評価し、「この経験が5年後、10年後のブランドを支える力になれば」とエールを送りました。

パリ挑戦で見えた、自分の変化と未来

報告会の後半では、プロジェクトの総合プロデューサーを務めた佐藤勇介氏の進行のもと、実際にパリのショーに参加した3名のデザイナーによる座談会が行われました。

登壇デザイナー(左から)
岩間夢々氏(ブランド:ŌNAMENT / オーナメント)
末永るみえ氏(ブランド:Q+FLOW / キューフロウ)
山岡寛泳氏(ブランド:KANEI / カネイ)

――それぞれのブランドと、今回の作品について

岩間(ŌNAMENT):
「日々変化する女性らしさの探求」をコンセプトにしています。女性一人一人の美しさ、毎日少しずつ変化しているという考えを軸に、日々洗練されていく彼女たちの美しさをさらに引き立てるファッションを提案していきたいと考えています。

末永(Q+FLOW):
私はバッグブランドとして参加しました。バッグをメインにしつつ、モデルさんに歩いてもらうために、バッグに使用した余りの革で衣装も制作しました。カッティングだけで綺麗なシェイプが出るよう、日本製の革の素材の良さを引き出すことを意識しました。

山岡(KANEI):
「旅人のコンパス」を掲げ、着る人にエールを送るブランドです。今回はショーということもあり、普段のプロダクト寄りな視点から一歩踏み込んで、ブランドらしさやメッセージ性を強く表現することを意識しました。

――パリでのショーを終えての成果は?

岩間:
一番大きかったのは、ショーを見てくれた業界関係者(MDやプレス担当)の方が、今後ブランドの運営に協力してくれることになった点です。メディア掲載やリースの依頼も増え、認知拡大に繋がりました。

末永:
バッグブランドとしてランウェイに参加すること自体が挑戦でした。現地では、制作した特殊な形状のバッグや衣装に対して、インフルエンサーやクリエイターの方から直接フィードバックをいただけたのが貴重な経験でした。帰国後にはアンリアレイジのショーのワークショップに関するお問い合わせもいただきました。

山岡:
パリのファッション業界のキーマンや、日本の百貨店の方と直接つながることができました。パリで発表した実績が、逆に東京での展示会への集客に繋がるなど、国内外でのパイプができたことが成果です。

――森永氏からの講評

3名の発表を受けて森永氏は、「3ブランドとも短期間で非常に伸びた」と称賛。

「ŌNAMENTは、完成されたスタイルの一歩手前にある可愛らしさやチャーミングさが世界でも稀有な表現だった。Q+FLOWは、独自の造形美をショーの世界観と結びつけて表現できていた。山岡くん(KAN EI)は、高いプロダクトレベルを維持しながら、実用性を超えた強い世界観を提示できていた」とそれぞれの成長を評価しました。

最後に山岡氏は、これから応募を考える人へ向けて「日本の中でこれほど贅沢なコンペは他にない。パリまで行けるという機会に甘えず、自分の力で歩き出す覚悟を持って挑戦してほしい」と力強いメッセージを送りました。

継続的な支援で「虎の穴」に

報告会の最後、東京都の左古担当課長が改めてメディアの質問に答えました。

「コンクールで発掘し、ブランド立ち上げを支援し、パリで発表する。この一連の流れの中で、森永さんのような一流の方から指導を受ける機会は、ある種『虎の穴』のような育成環境かもしれません。しかし我々は、そこから世界で活躍できるブランドを生み出したいと本気で考えています」

今回参加したデザイナーたちには、すでにメディアでの特集や百貨店でのポップアップイベントなどのオファーが舞い込んでいるといいいます。

「東京を世界的なファッション拠点へ」。その言葉通り、東京都が若き才能たちに提供した「本物」の経験は、彼らの内なる世界を広げ、確実に次のステージへと押し上げているようです。