長寿大国日本。9月15日の「老人の日」に合わせて厚生労働省が発表した百歳高齢者表彰の対象者は、前年よりも1,966人多い47,107人でした。一方、株式会社Hakuhodo DY Matrixのシンクタンク「100年生活者研究所」が設立時に行った調査によると、100歳まで生きたいと考えている日本人は3割ほど。これが日本特有であるかを調べるため、同研究所はアメリカ・中国・フィンランド・タイの4か国の生活者を対象に、人生100年への受け止めを明らかにする意識調査を実施し、昨年3月に行った国内調査と比較したところ、「100歳まで生きたい」気持ちや幸福度は日本が対象5か国で最も低いことが分かりました。しかしながらその他の調査結果を踏まえると、幸せに過ごしている100歳のロールモデルが身近にいれば、日本人の100歳まで生きたい気持ちを向上させる可能性が示唆されました。
■調査概要
<日本・海外共通>
調査目的:日本と海外の100年生活の実態を把握する
調査手法:インターネットモニター調査
<海外調査概要>
対象地域:アメリカ・フィンランド・中国・タイ
調査期間:2023年3月
調査対象者:20~70代の男女 各国600名(計2400名)
<日本調査概要>
対象地域:日本 全国
調査期間:2022年10月
調査対象者:20~70代の男女2400名
<LINE会員調査>
調査目的:人生100年時代に対する認識と態度を把握する
調査手法:LINEによるアンケート調査
調査地域:日本 全国
調査日時:2022年3月
調査対象者:100年生活者研究所 LINE会員(20~80代男女)1604名
5か国比較調査 結果詳細
100年人生意向を国別で比較
100歳まで生きたいかという質問(=100年人生意向)では、日本は平均寿命世界トップクラスであるにも関わらず、他の4カ国と比べ「100歳まで生きたい」人が圧倒的に少ないことがわかりました。日本以外の4国は、「100歳まで生きたい」層が過半数で、特に、中国、アメリカは高い傾向がみられました。
主観的な“幸福度”を質問
10点満点で幸福度を質問したところ、日本の平均点は5.8点で、対象5か国の中で最も低い結果となりました。一方、最も高かったのは中国の8.4点で、タイ(7.3点)、アメリカとフィンランド(どちらも6.9点)と続きました。
幸福度と100年人生意向の関係性
幸福度スコアを「高幸福度(8~10点)」「中幸福度(6~7点)」「低幸福度(0~5点)」で分け、それぞれで「100歳まで生きたい」人の割合をみました。その結果、対象5か国すべてにおいて、幸福度スコアが高い人ほど「100歳まで生きたい」という気持ちが高く、幸福度と100年人生意向が関係していることが示唆されました。
日本が他国と比べて100年人生意向や幸福度が低い理由は?
100年生活者研究所 研究員 田中卓氏は、100年人生意向と幸福度に相関関係があるとし、他の調査結果も交えながら仮説を提示。それを踏まえて「日本人が長生きを前向きに捉えるために何を取り組めば良いのか」について考察しました。
100年生活者研究所では国内の会員を対象に毎週アンケートを実施。そのアンケートで「100歳まで生きることは不安が増えることですか、チャンスが増えることですか」と質問したところ、下記のようにコメント。
「不安が増える」と回答したのが71.8%に上り、多くの人が「長生きはリスク」と捉えていることが分かりました。高齢者が多い日本では、年金2千万円問題や老々介護といった「長生きに伴う問題」についての情報が、広く流通しています。それにより、他国と比べて「長生きの負の側面」が浮き彫りとなり、100歳まで生きたいと思う人が少なくなるという結果につながっているのかもしれません。また、一般的に日本人は集団主義の傾向が強く、社会や他者との関係性を重視する気質があると言われています。会員アンケートでは、9割弱の人が、「100年人生で、みんなに迷惑をかけたくないという気持ちを感じる」と回答しました。「100歳まで生きたいとは思わない」人が多いことの背景に、「長生きして迷惑をかけたくない」という日本人の意識がありそうです。その一方、集団主義的傾向の裏返しとして、8割強の人が「みんなの役に立ちたいという気持ちを感じる」と回答。もし高齢者の世話を「人と社会に役立つこと」として当たり前に認識できる社会になれば、「長生きは迷惑」と感じることなく「100歳まで生きたい」と考える人が増えるのかもしれません。(田中氏コメント)
日本人が長生きを前向きに捉えるためには?
「100歳の人は幸せそうに見える」と回答した人と「100歳の人は大変そうに見える」と回答した人のそれぞれに「100歳まで生きたいか」を質問。その結果、「とてもそう思う」もしくは「そう思う」と答えたのは「100歳の人は幸せそうに見える」人が67.8%だったのに対し、「大変そうに見える」人では25.5%となり、40ポイント以上の差がありました。
「100歳の人が幸せそうに見える」人ほど「100歳まで生きたい」気持ちが強いのであれば、「幸せな100歳」「幸せな長生き」を体現している人にスポットライトを当てることで、100年人生を前向きに捉える人を増やしていくことができるのではないでしょうか。周りの人に支えられながら、長生きのリスクをしなやかに乗り越えた、100歳の人の姿が社会で見えるようにすること。それにより「100歳まで生きたい」との希望を社会に生み出していく。それができれば、超高齢化社会の日本において、長生きは迷惑ではなく、むしろ「社会の役に立つこと」になっていくでしょう。(田中氏コメント)
研究員コメント詳細:
https://well-being-matrix.com/100years_lab/posts/100report230915/
本調査では、日本人は「100歳まで生きたい」という気持ちが低く、100歳まで生きることは「不安が増える」と捉えている人が多い結果でした。まずは、人と人は支え合うもので迷惑をかけていい、という当たり前の気持ちが持てる温かい社会が広がること。そして、高齢者に対するさまざまなサポートがより充実し、高齢者が社会で活躍できる場が増えていくこと。それが幸せな100歳の人の姿を目にすることに繋がるのではないでしょうか。
■Hakuhodo DY Matrixについて
Hakuhodo DY Matrixは、「The well-being company」として人々の幸福と健康の増進に役立てることを目指し、博報堂DYホールディングスのグループ会社として2021年4月に創業しました。「100年生活者を見つめ、人生を通してWell-beingであり続けられる理想社会の実現に貢献する」というミッションの下、シンクタンクである100年生活者研究所を通して、人生100年時代の幸せをテーマにした調査リリースを発信・提案しています。