太陽ホールディングス株式会社の子会社でエレクトロニクス事業を担う太陽インキ製造株式会社が、4月24日に太陽ホールディングス嵐山事業所内にグループ初となる技術開発センターを開設しました。新施設開設に伴い実施された記者発表会では、社員公募により決定した施設名称の発表から施設戦略や設計ポイント、今後の展望について語られました。
発表会終了後にはツアー形式での施設内覧会もあり、実際に施設を回りながらこだわりポイントが解説されました。
『ヒト』と『ミライ』が化ける、新しい科学技術開発センター「InnoValley」誕生
太陽ホールディングスは、エレクトロニクス事業、医療・医薬品事業、ICT&S事業を展開している、日本から世界へ広がるネットワークを持つ“グローバル科学メーカー”です。そして子会社の太陽インキ製造は、あらゆる電子機器に欠かせないソルダーレジストの世界シェアNo.1※を誇るリーディングカンパニーです。
発表会の冒頭では太陽ホールディングス株式会社 代表取締役社長の佐藤英志氏より主催者挨拶があり、施設概要の説明や開設経緯、施設名称の発表がありました。
太陽ホールディングスグループ初の技術開発センターには、知的生産性の向上とコミュニケーションが活発化する施設内構造、新規事業・製品開発に繋がる最先端設備と新規設備の導入という2つのポイントがあり、「ヒトづくり」を通じて、経営理念である楽しい社会の実現を目指しています。
昨年で70周年を迎えた太陽ホールディングスですが、佐藤社長は「当社のエレクトロニクス事業の売上高、そして太陽インキ製造の従業員数は、ともにこの10年で2倍の成長となります。とりわけ太陽インキ製造だけ見ますと、2013年3月期が321億、売り上げうちの100億程度でございました。それが昨年は300億を超えるような売上高になっております」と振り返りました。
施設の開設に至った経緯に関しても、このようなエレクトロニクス事業における需要と社員の増加が背景にあり、また導体市場の回復に合わせてエレクトロニクス事業をさらなる成長事業にできるように、個人的資本経営を実現し企業価値を高めることを目的としています。
新たに開設された施設は、グループ初の技術開発センター開設記念として、施設利用をする社員へ施設名称の公募募集が行われ、応募177件の中から「InnoValley(イノヴァリー)」を施設名称に決定したことを発表。
新施設名称について「InnoValleyは「革新の渓谷」を意味する造語です。この技術開発センターが想像と革新の源泉となり、新たなアイデアが流れ出す場所であることを表現しております。“Inno”は『イノベーション』からきており革新の略で、“Valley”は「渓谷」で当施設所在地と施設内特徴にも係る嵐山渓谷を意味します」と造語が意味する由来の部分を説明しました。
続けて「当社は、2021年度に策定した長期経営方針の基本方針の1つ目に、多様化する組織や社会に対応する自律型人材の育成・活用を定めております。「仕事のやりがい」「職場環境」「公正な評価・給与」の3つをバランスよく整えることで、自ら目標を設定し、その達成のためのプロセスを楽しむことができる自律型人材を育て、活躍する組織を目指しています。当社方針に基づき設計されたInnoValleyは、楽しい社会を実現する1つです。 想像を超える未来を持ったモノづくりに繋がり、さらに『ヒト』と『ミライ』が化ける、新しい科学技術開発センターでございます」と新施設に期待する想いを語られました。
社員のポテンシャル引き出す労働環境で今後のモノ開発やヒトづくりを狙う
続いて、太陽インキ製造株式会社 代表取締役社長の峰岸昌司氏より施設の戦略と詳細について説明されました。
「本施設は、顧客基盤の強化を始めとする全てに関わる重要な位置付けとなります。中でも新規事業開発の創出といたしましては、半導体向けの厚膜封止剤などの継続的な新製品上市の迅速化においては大きな期待を寄せております」
地上6階建て延床面積10,400㎡となるInnoValleyは、1〜3階がラボエリア、4〜6階がオフィスエリアというエリア構造になっています。施設全体には太陽ホールディングスグループの経営理念を実現するために大切にしているグループ共通の価値観「太陽バリュー」に基づき設計されており、低層フロアと高層フロアの異なる環境を行き来することで、社員のポテンシャルを最大限に引き出すことを狙います。
また設計にあたっては、会議室の数や実験室の動線など、実際に利用する開発部門を中心とした社員によるワークショップの意見が随所に反映されているようです。
設計デザイン/DRAFT Inc.
特に峰岸社長一推しのエリアとしては、社員が一番使用する「4階のオフィスエリアから5階にかけて」だと言います。
4階は固定席に加え2フロア分のABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)エリアを設置しており、チーム内外での自然な情報共有など、開発の源泉となる偶発的なコミュニケーションを喚起します。
こういった労働環境の変化に伴い、峰岸社長は「今まで結構外が見えないような空間で創造活動を行っていました。そうなってくると、やはり内向きの考え方しかできない。当施設は、かなり外を見ながら、環境を変えながら、行き詰まった時には違うところにいくような働き方ができる。尚且つヒトとのコミュニケーションのとり方も偶発的という言葉を使いましたが、積極的にいろんな人と関わることはもちろんそうなんですが、アイデアの交換をすることによって、新たな今まで思いつかなかったことが思いつくような創造的活動ができるんじゃないかと思っています。上の世代から押さえつけて、これをやりなさいっていうよりかは、ボトムアップで自分たちの考え方をしてモノを開発してもらいたい、そういうような施設になってもらえればと思っています」と今後のヒトづくりに関しても考えを述べました。
また今後の成長戦略については「まず我々太陽インキ製造におきましては、ソルダーレジストのリーディングカンバニーになっています。ただ、ソルダーレジストだけではなかなか今後成長していくには非常に難しい。今回新しい機器・設備を導入したので、今後狙っていく材料に対しても新たな市場に対して展開していくことができる。なので、ソルダーレジスト以外の市場に対して迅速に対応できる施設として活用していきたいと考えております」と語っています。
環境配慮技術も取り入れ、開発拠点としては珍しい3つの公共機関による認証を取得
今回建築計画全体を担った大成建設株式会社 設計本部 建築設計第二部 部長の杉江大典氏からは建設計画について説明されました。
上層階のオフィスエリアは、ラボエリアの特徴でもある外部の環境をシャットアウトする外壁を作り、内部で完全に機械的にコントロールするという環境とは反対に、外部に開いた作り方をしており大きなガラスのスクリーンがあることによって明るく開放的なオフィス環境を演出します。
杉江氏も「太陽バリューの中でいうコミュニケーションの部分で、楽しさといったところを体現した作りであると言っても過言ではないかなと思います」と述べていました。
また中央の吹き抜けによって、知的生産性の向上をはかるような働き方も狙っています。中央の吹き抜けの複雑な形は嵐山渓谷をデザインのモチーフとして取り入れたものになっており、ここで働く人々はこの吹き抜けを移動しながら外部の景観を一望することができます。
そしてエントランスでは、有名な左官職人 久住有生氏の左官壁、国産材を利用した木製ルーバー、手漉き和紙職人 谷野裕子氏による小川和紙など、これらの地元の職人の手によるものを利用し、武蔵嵐山のアイデンティティといったものを表現しています。
さらに環境配慮技術にも様々なものを取り入れているそうで、超高効率度の設備機器、高精度な人検知センサー、特殊なロリケアガラスなどが使用されています。
杉江氏は「これによって断熱性・耐熱性といったものが上がっています。その他、様々な環境配慮技術を採用していますが、相対的にZEB Ready(ゼブレディ)を達成した建物になっています。 さらに、省エネルギーや室内の快適性度、景観への配慮といったところが総合評価になるCASBEE(キャスビー)においても最高位Sランクを獲得しています。健康性・快適性といったものが評価の対象になりますが、CASBEEウェルネスオフィスにつきましてもSランクを達成するといった、大きく3つの印象を獲得することができています。これは研究開発拠点としては非常に珍しいケースとなります」と研究開発拠点として珍しいと言われているのが環境配慮への評価について解説しました。
嵐山の自然と調和する、世界に通用するオンリーワン施設に
当施設で主に高層フロアのオフィスエリアと一部エリアの設計を担当したDRAFT Inc. シニアディレクターの中村嶺介氏からは、今回掲げた「嵐山から世界へ。世界から嵐山へ。太陽インキ製造らしい世界に一つの技術開発センター」のコンセプトとともに、インテリアデザインについて説明されました。
まずコンセプトに対しては「嵐山という場所と技術開発センターという施設、この相乗効果をどう生み出していくかというところも含めてですが、その相乗効果によって生み出された世界に通用するオンリーワン施設といったものを作っていきたい、といったところで考えさせていただいております」と話しました。
インテリアデザインのイメージについては「当然建築側との競争と言いますか、調和を保ちながらということを意識しつつ、その自然の力で形成される、この地域にあるということをうまくこの地に目立ちすぎることなく調和する、というところを考えながらデザインを紐解きました。雄大な自然や槻川の直線など、そういったところを随所に散りばめつつ、雰囲気としてはしっかりと自然を感じさせるようなアースカラーをベースに作らせていただいております」と述べました。
今回の設計への思いとして「我々としましては、やはりコンセプトに掲げていますように『嵐山が世界へ。世界から嵐山へ。』といったところを体現できるように、社員の方々の知的生産活動を最大化させる場であり、 且つ、ひいては世界から嵐山へ人材が集まってくるような、そんな未来を願って設計させていただきました」と語りました。
社員の声をもとに
施設内覧会終了後、今回本センター設立プロジェクトリーダーとして設計に係った太陽インキ製造の米田一善氏からもお話を伺いました。
社員の方々の声で特に大きかったものについては、コミュニケーションと実験室の2つがあったようで、「やはりコミュニケーションを活発に取りたいということがありました。オフィスフロアの話になってくると、やはりABWのようなコーナーを作ることで、最初はおそらく逆に窮屈に感じることもあると思うのですが、我々は常に変化や成長していこうという想いがある中で、そういった違った形のコミュニケーションをとって仕事をしていきたいという気持ちがありました」と語られ、労働環境だけでなく、今後は社員自らが変わっていこうという想いが感じられました。
実験室に関しては、「1階、2階の実験室エリアのところは、やはり今まで開発と製造拠点が1つになっていたところで、少しやっぱり実験の動線が悪かったところもあるんですが、今回この開発専用の塔を作ることで実験の動線がスムーズに、また開発速度を上げるということができたので、是非そういうことをしてほしいというのが希望でありました」とのことで、実際にも高効率性が期待できる実験室がかなえられていました。
施設開設にあたり作られた文化会は約15名で、開発部門・営業部門からそれぞれ何名か参加し、また年配の方から若手といった経歴・年齢・性別、そして役職も様々なメンバーで何度もワークショップを重ね、いろんな視点での意見を取り入れられるようにしていたそうです。
今後の施設や働き方の改良の動きについて聞くと、「施設自身のこの作りっていうのはそうそう変えられないと思うんですけれども、実は今回この新棟を作るにあたって、我々のこの開発等の中で生活をするためのルールというのを社員が作ってるんですよ。例えば、モノの取り入れどうするとか、部品の発注どうする、食堂やご飯はどこで食べるとかっていうのを全部社員でルールを作りました。我々小集団活動っていう改善チームみたいなことを半期ごとにやっていて、この1年間は新しい開発と生活をするためのルールを物がない中で一生懸命作りました。それを明日から運用させてくんですけれども、実際過ごしてみると、やっぱりこのように変えた方がもう少し生活しやすいだろうっていう話が出てくると思うんですね。また、それは我々がやっているその小集団活動で、おそらくここはもう私の方がやっていくのではなくて、おそらく自発的に自分たちで変えていけるんじゃないかなと考えてます」と今後の一人一人の動きにも期待していました。
今回の発表会の最後には、峰岸社長による「当社のような部材メーカーの中で、我々はソルダーレジストのリーディングカンパニーとして、技術開発センター『InnoValley』が世界における競争力を高め、日本のモノづくり・製造業を元気にできるように貢献していきたい」という熱いメッセージがありました。
近年人材不足や日本産業の衰退についても危ぶまれていますが、4月1日からスタートした新施設「InnoValley」での働き方が、今後社員の方々や新たなモノづくりに対して明るい影響を及ぼすのではないでしょうか。70周年を迎えた太陽ホールディングスや太陽インキ製造の今後に注目です。
※「2019年エレクトロニクス先端材料の現状と将来展望」株式会社富士キメラ総研調べ
【太陽インキ製造株式会社】
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【太陽ホールディングス株式会社】
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