国内外13か所にコンテナ型データセンターを擁する株式会社ゲットワークスが、新潟県南部を拠点にグリーントランスフォーメーション関連事業を手がける株式会社GXテクノロジーと協働で新潟県の湯沢町に「湯沢GXデータセンター」を開設。その運転開始記念式典が2月20日に開催され、施設の一部がマスコミ向けに公開されました。AI時代のデータセンターに求められるサーバーの冷却性能を持ちながら環境負荷低減にも即する本施設。現地で感じたその凄さをお伝えします!
雪中の越後湯沢に突如現れる広大なコンテナ空間
白銀のゲレンデにスキーヤーやスノーボーダーが軌跡を描き、まだまだ春の訪れは遠いと感じさせる2月下旬の越後湯沢。そんな雪景色の中を越後湯沢駅からバスに揺られてしばらく行くと、約120棟もの大量のコンテナが整然と並ぶ広大な空間に到着。一見すると「トランクルームみたいな倉庫スペースですか?」と思う人も多いに違いないこの場所こそ、この度本格稼働が始まった「湯沢GXデータセンター」なのです。

データセンターとは企業等からインターネットサーバーなどの通信機器を預かり保管する施設のこと。堅牢性の高い施設には機器を動かすための大容量電源やサブ電源、サーバー等を冷やす冷却・空調設備などが整備されており、災害時のリスク軽減の観点からも年々需要が高まっています。一方で企業に生成AIの活用が広がる昨今は、旧来のデータセンターに用いられてきた空冷の仕組みでは次々と新しくなるGPU(演算装置)を搭載したサーバーが発する熱量に十分な冷却効果を得ることが難しくなりつつあり、海外では採用が進む水冷技術の普及が急務になっています。そうした中で本センターは、この土地の豊かな水源を活かした水冷でサーバーラックを運用する「液冷」の技術を採用しているのが特徴です。
「湯沢GXデータセンター」の最新“液冷”設備とは
現地に到着した我々はまず、液冷コンテナ全体の冷却機能を司る「クーリングタワー」を見学。
本施設は、アメリカのシリコンバレーに本拠地を置くSupermicro社製の最新液冷クーリングタワー「LCS-SCLT-010C1001」を世界で初導入。液冷コンテナで熱せられた水を冷やし、再び冷水をコンテナに送る循環の役割を果たしています。現地での案内によると、これ一台でサーバー100台分にあたる1000キロワットの熱量を冷却できるとのこと。内部に引き込む風量・水量の自動制御でも優れた性能を誇るといいます。

なお、施設名にある「GX」とは「グリーントランスフォーメーション」のこと。2014年から各地でコンテナ型データセンターを設置してきたゲットワークス社は、当初から河川、太陽光、バイオマスなど、土地ごとの特徴を活かした再生可能エネルギーを施設運用に活用してきました。AI時代に根ざした本施設でも、この土地の豊富で冷涼な井戸水と水冷技術を利用することで空冷設備に比べて7割から8割程度の電力量低減を想定しているそう。
続いて液冷コンテナが立ち並ぶ区画に移動。

きっとここまでの話を聞くと「そういう施設って窓もないような巨大な建物の中にあるんじゃないの?」と別の疑問が浮かんでくる人も少なくないと思いますが、コンテナ型のデータセンターはゲットワークス社最大の強み。初期投資に多大な費用と時間がかかる建屋型のデータセンターに対して、コンテナ型のデータセンターには小費用、省スペース、短期設営可能というメリットがあるといいます。このコンテナ型データセンターの製造から保守までの一連の行程に一社でワンストップ対応しているところも同社の特徴です。
この日は従来なかなか見ることができないデータセンターの内部まで特別に見学。秘密を覗き見るようなドキドキの気分で扉が開くのを待つと、中からはそれまでまったく聞こえてこなかったゴォーーーっという大きな機械音とともにサーバーが多数搭載されたサイバーな空間が…。コンテナ内にはクーリングタワーからCDU(冷却水循環装置)という装置を通じて内部のチューブに「クーラント液(水と空気が混ざった液体)」が送られ、サーバーが発する熱を吸収しています。

コンテナ1台が発する熱量は約10ワットで、同じ熱量を空冷で冷やそうとすると倍のスペースの冷却装置が必要とのこと。そのため水冷の設備には一定のスペースの中により多くのサーバーを置けるというメリットも。また、空調設備にはシュナイダー社製の水冷式冷却装置(InRow空調機RCシリーズ)を搭載。データセンターの消費電力の約4割が空調設備といわれる中、こちらも水冷かつサーバーラックのすぐ隣に置けるコンパクトな空調機を採用することで空気の搬送の短距離化とファン動力の最小化を図ることで電力量低減につなげているそうです。
積雪の中で行われたこの日の施設見学。プライベートはもちろん、仕事でもAIを活用する機会が増えている中、AIを利用しているだけでは知ることのないこうした施設の存在に、大きな驚きとささやかな感動を覚えました。
越後湯沢を日本の“AIの中心地”に
湯沢町の田村正幸町長らを来賓に招いて行われた運転開始記念式典では、株式会社ゲットワークス代表取締役の中澤秀則氏、株式会社GXテクノロジー代表取締役の瀧澤泰三氏が挨拶。
ゲットワークスの中澤氏は10年前にコンテナ1台からスタートした湯沢町の事業がここまで成長したことに対する感慨を述べつつ、自社の主要事業地にこの町を選んだ理由について次のようにコメント。

「冷涼な気候と豊富な水があり、雪が解けた水が井戸水となって真夏も大量の水のある環境でサーバーを冷やすことができる。新幹線の駅がある土地で、これだけの井戸水、川の水が手に入る環境は日本中を探してもそうそう無く、湯沢町を選べたことは奇跡だと思っています」
その上で同町の協力者をはじめとする関係各所に感謝の意を述べ、「湯沢をAIの中心地と感じてもらえるように本センターをさらに広げていきたい」と今後の意気込みを語りました。
一方で、GXテクノロジーの瀧澤氏は、地元企業の視点から「資源の豊富な湯沢町で、その資源をデータセンターに活用する取り組みは、後に続くデータセンターにおいても1つの指標になりうるもので、湯沢町ひいては新潟県の可能性を大きく引き上げる取り組みであると確信しています」と挨拶。その上で「こうした事業を通じて新潟県に貢献できることを非常に嬉しく感じています」と述べ、無事運転開始を迎えられた喜びを披露しました。

また、来賓を代表して祝辞を述べた湯沢町の田村町長は、両社が湯沢町で初のデータセンター設置を決めた頃から行政としてもできる限りの支援を行ってきたとし、「私たちの生活を大きく変える可能性を持ったAIの負荷増加の問題において、その解決策の有力な答えが、いま私たちが目の前にしているこのデータセンターにあると思います」とコメント。

そして「コンテナを用いることで建設コストと運用コストを抑え、自然エネルギーを活用することで電力消費、環境負荷を抑えることができる。これこそ時代のニーズに合ったシステムだと思います」と述べて、記念すべきこの日を迎えた両社を労いました。

その後は協力企業の関係者も交えた記念のテープカットで同センターの運転開始を華々しく祝福。時折雪が舞い降りる寒空の下、ここだけは出席者が喜びを共有し合う熱い活気が漂う空間になっていました。
ついにスタートを切った「湯沢GXデータセンター」。年々進歩が進むAI時代において、環境に配慮しながら時代の要請に応えるこうした企業と施設の取り組みを少しでも知ってもらえたら嬉しいです。