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AIがファッションデザインのプロセスを変革する。TEECHIがポップアップストアで初披露した挑戦の裏側

ブランディングやクリエイティブを軸に事業を展開する株式会社BOLDが運営する、テクノロジーとファッションを融合させるアパレルブランド「TEECHI(ティーチ)」が、2025年10月7日(火)から10月20日(月)までの期間、渋谷スクランブルスクエアにて「2025 – 2026 WINTER / SPRING COLLECTION」を展示・販売するポップアップストアをオープンしている。

今回のPOP-UPでは、新コレクションの展示・販売に加え、渋谷スクランブルスクエア特別企画として、AIクリエイター kinomura miho氏とコラボレーションしたAIデザインのアイテムを初公開。ファッションブランドが本格的にAIをデザインプロセスに取り入れた今回の挑戦は、業界に新たな可能性を示すものだ。

そこで今回は、株式会社BOLDの三吉竜大さんに、ブランド初の試みであるAIデザインのアイテムが完成するまでの流れと、AIが拓くファッションの未来について話を聞いた。

「未来の渋谷」をAIと描く。デザインはプロセスへの挑戦

――今回、特別企画としてAIがデザインしたアイテムを初公開されました。どのようなテーマで制作されたのでしょうか?

三吉さん:今回のポップアップストアの舞台でもある「未来の渋谷」をテーマにしています。プロンプト(AIへの指示)には、渋谷をイメージするキーワード、例えば「人の重なり」や「文化が混沌としている様子」、あるいは渋谷スクランブルスクエアのような「多層階」「ビル群」といった言葉を羅列していきました。特定のデザイン、例えば「ポケットをたくさんつけてほしい」といった直接的な指示ではなく、あくまで渋谷という都市が持つ多層的な文化や機能といった抽象的なイメージを言葉で伝えて、AIにデザインを生成してもらった形です。

ポップアップストア入り口に飾られたAIデザインの服は、前を通る人たちの視線を釘付けにしていた。

――完成したアイテムには、そのテーマがどのように反映されていますか?

三吉さん:例えば、多層階のイメージは洋服のレイヤー(重ね着)で表現されています。また、文化のカオス感や、小さなコミュニティがたくさん存在する様子は、機能的でありながらデザインのアクセントにもなっている数多くのポケットで表現されています。これらはベルトに装着されているので、取り外せばシンプルなワンピースとしても着用でき、より未来的なシルエットを楽しめます。

上から胸部、腹部、脚部。近くで見てみると、その近未来なデザインの様相がよくわかる。たくさんのポケットはベルトに吊り下げられており、ベルトを外せばワンピースに様変わりする。

――AIをデザインに導入する上で、特に重視した点はどこですか?

三吉さん:我々が目指したのは、AIに突拍子もないデザインを作ってもらうことではありません。それならば、優れた人間のデザイナーがたくさんいますから。今回チャレンジしたのは、AIに「服を作るプロセス」へ入ってもらうことでした。

AIがデザインの初期段階に関わることで、人間だけでは思いつかないような膨大なデザイン案が生まれますし、チーム内の「こういうものを作りたい」というイメージを言語化してまとめる助けにもなります。デザイン画が描けない人でも、言葉でイメージを伝えることでデザインを起こせるようになる。このプロセスへのアプローチこそが、今回の挑戦の核でした。

――AIが生成したデザインを、実際に人が着られる服として形にする上で難しかった点はありますか?

三吉さん:AIが生成したデザイン画をそのままパタンナーに渡しても、「こんなものは作れない」となってしまいます。AIのデザインは、あくまでアイデアの出発点。そこから人間が、「人が実際に着られる服」としてデザインに落とし込み、パタンナーが形にできる設計図をもう一度作るという工程が必要でした。その人間とAIの協業が、今回の大きなポイントです。

――今回はAIクリエイターのkinomura mihoさんと協業されていますね。

三吉さん:はい。AIファッションの世界では非常に有名な方です。我々にはAIに関する専門的な知見、特に著作権や肖像権といった法律面の知識がありません。無意識のうちに誰かの権利を侵害してしまうリスクを避けるためにも、専門家であるkinomuraさんの力は不可欠でした。彼女の知見があったからこそ、安心してこのプロジェクトを進めることができたんです。

――AIとの協業で、ファッションの未来はどのように変わっていくとお考えですか?

三吉さん:今回はデザインのプロセスにAIを導入しましたが、次のステップとしては、AIがパターンを作成し、さらにその先のステップでは、DX化された工場でAIが縫製まで行う未来を描いています。そうなれば、お客様一人ひとりに合わせた服を、デザインから縫製まで一貫して、例えば1週間ほどで完成させるような「マス・カスタマイゼーション」が実現できるかもしれません。今回の挑戦は、その未来に向けた最初のプロセスだと考えています。

今回、同社が初お披露目したAIデザインのファッションは、ポップアップストアの舞台になった渋谷をイメージとしているが、今後は世界中の様々な都市を舞台にご当地AIデザインが登場するかもしれない。そしてそれは、我々人間が思いもつかなかったようなものになることは間違いない。AIデザインのファッションは、いつしかその都市のスタンダードなファッションになる可能性も秘めている。その時を楽しみに待ちたい。きっとそんな遠い未来のことではなさそうだ。


POP-UP STORE概要
TEECHI POP-UP STORE 2025 – 2026 WINTER / SPRING COLLECTION
期間:2025年10月7日(火) – 10月20日(月)
場所:渋谷スクランブルスクエア7F イベントスペース LX7
(〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2丁目24-12 7F)
アクセス:
JR線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線「渋谷駅」と連絡通路で直結。
東急東横線・東京メトロ副都心線・東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線「渋谷駅」直結。