いま、若い世代が会社に求めるものは、少しずつ変わってきているのかもしれない。年収や肩書だけではなく、何を面白いと思って働けるか。どんな人たちと、どんな価値観で時間を使えるか。そんな問いが、就職や転職の判断材料として以前よりも確実に大きくなっている。その変化を、理念ではなく実務と経営の両方で引き受けようとしている会社がある。株式会社こす.くまだ。
こす.くまは2019年に設立された会社で、共同代表は「すのはら」さんと「たけち」さん。HIKAKIN、はじめしゃちょー、東海オンエアなど、国内YouTubeシーンを代表するクリエイターの企画・構成に長年携わってきた二人が立ち上げた。企画制作に関わったチャンネルの総登録者数は約3,500万人以上、総再生回数は約60億回以上にのぼるという。実績だけを見れば、王道の制作会社として進んでいても不思議ではない。けれど、彼らが今やろうとしていることは、そこでは終わっていない。
主な事業は現在もYouTube制作だ。トップクリエイターたちの裏方として、企画立案から撮影、編集まで制作全般を担う。さらに商品プロモーションでは、ラベルデザインや見せ方、広げ方といったクリエイティブ面にも携わっている。つまり彼らは、単に動画を作る人たちではなく、「どうすれば人が面白がるのか」「どうすればその価値観が届くのか」を仕事にしてきた人たちだ。だからこそ、その知見がいま“会社そのもののあり方”にも向き始めているのが興味深い。
その象徴が、こす.くまの中で育てられている「FLIP(フリップ)」という考え方である。意味は、既成概念をさっと裏返すこと。彼らは、インターネット上の企画だけでなく、リアルな場所や社会的なテーマにも企画を持ち込み、これまで当たり前とされてきた見方を反転させようとしている。落書き、寄付、廃棄、善意のハードル。そうした“正しさはあるけれど、参加しにくいもの”や“ネガティブに見られがちなもの”に対して、別の入り口をつくる。それがFLIPの核にある発想だ。
わかりやすい例が、2026年2月に始動したメジャーリーガー・村上宗隆選手との共同プロジェクト「Beve(ベベ)」だ。QRコード入りのオリジナルTシャツを販売し、その売上の一部とQRコード経由で集まった寄付金を、日本小児がん研究グループ(JCCG)に届ける仕組みになっている。ここで彼らが着目したのは、「寄付はちゃんとした人が、ちゃんとやるもの」という空気だった。だからこそ、口座振込や重たい決意ではなく、Tシャツを買う、着る、話題にするという日常の延長に寄付の導線を置いた。寄付を尊いものとして遠ざけるのではなく、もっと生活の中に近づける。これは社会貢献というより、寄付のUXを再設計する企画だと言ったほうが近い。
こす.くまの面白さは、こうした企画の中身だけではない。もっと根本には、「株式会社は、利益を最上位に置く以外の形で成立しうるのか」という問いがある。彼らは「お金儲けを目指さない株式会社が、お金を稼げるか」という実験をしていると語る。売上や利益を否定しているわけではない。ただ、それを出発点にはしない。まず自分たちが心から面白いと思えることに集中し、その結果として売上が積み上がる状態をつくれるのではないか。その順番を、本当に会社経営で成立させられるのかを試している。
この考え方は、単なる理想主義ではなく、むしろかなり現代的だ。数字だけでは拾いきれない価値を、会社の中にどう残すかという問題意識があるからだ。チームで働く豊かさや、続けたくなる感覚や、生きている実感。そうしたものはKPIに落とし込みにくい一方で、人が仕事を続ける理由としてはむしろ本質に近い。こす.くまは、そこを曖昧な精神論で済ませず、事業と組織の両方で言語化しようとしている。過程そのものに価値が生まれれば、それ自体がコンテンツにもなり、キャッシュエンジンにもなりうるという発想は、いわばプロセスエコノミーを会社経営に接続する試みでもある。
しかも彼らは、昔ながらの“好きなことだけやっていたい”という態度でこの話をしているわけでもない。背景には、AI時代へのかなり具体的な感覚がある。文字も画像も映像も、AIによって大量に生成される時代が来る。そうなったとき、企画とは何か、人間にしかできないことは何か、エンターテインメントは何を届けるべきか。こす.くまはその問いを、反AIではなく、むしろAIを理解したうえで考えている。「AIを理解することで、逆に人間らしさが鮮明に見えてくる」という発想は、彼らの仕事観をよく表している。
実際、取材では若い人たちからの共感も少なくないことが語られている。会社に対して、単に条件の良さではなく、「どう生きたいか」と接続した働き方を求める人が増えている感覚があるのだろう。遊んでいるように見える人が羨ましい、好きなことを仕事にしている人がかっこいい、という価値観の変化はたしかにある。ただ、その一方で、そう見える生き方にも別の苦しさはある。こす.くまは、その理想と現実の間を、きれいに言い切るのではなく、あくまで“試している最中の会社”として引き受けている。そこがこの会社の誠実さでもある。

有名YouTuberの裏側を支えてきた会社、と紹介することももちろんできる。けれど今のこす.くまを面白くしているのは、その過去の実績以上に、「どんな会社なら、これからの若い人にとって魅力的なのか」を自分たちで先に試している点だと思う。利益を出すために働くのではなく、面白いから続けたくなり、その結果として事業になる。そんな順番は本当に成立するのか。こす.くまが始めたのは、働き方の理想論ではない。会社という仕組みを使って、それが現実になるかを検証する、かなり地に足のついた実験なのである。
株式会社こす.くま
https://kosukuma.com/home.html