武蔵野大学(東京都江東区、学長:小西聖子)は7月10日、世界的人気オンラインゲーム「フォートナイト」を活用した学修コンテンツに、新たに2種類を追加公開しました。今回加わったのは「データサイエンス学科」と「フィールド・スタディーズ(地域探究)」をテーマにした2つのコンテンツで、2024年3月に公開した経営学科のコンテンツに続く第2弾となります。
同大学が展開するこの企画は、卒業生で株式会社日本でいちばん遊んでる会社(神奈川県横浜市)代表取締役の宮崎雄基氏と共同で立ち上げたもので、フォートナイトの世界に大学の模擬授業を再現する取り組みとしては日本初とされています。大学が扱う専門的な学びをそのままゲームの中に持ち込むのではなく、ゲームという中高生にとって身近な入り口を通じて「大学の学びは面白い」と感じてもらうことを狙いとしています。
データサイエンス学科:試行錯誤しながら最短ルートを探す
データサイエンス学科のコンテンツは、フォートナイト上に再現された「武蔵野大学 有明キャンパス」を舞台に、制限時間内にゴール(卒業論文提出場所)を目指すというもの。プレイヤーは移動しながら瞬時にルートを選択・探索し、何度も失敗を繰り返しながら最短ルートを探っていくことになります。その試行錯誤のプロセスを通じて、AIが精度を高めていく仕組みと同じ「強化学習」の考え方に自然と触れられる作りになっています。ゲームで遊びながら「データを収集し、合理的な意思決定を行うプロセス」を経験することで、データサイエンスの基礎となる考え方を体感できます。


フィールド・スタディーズ:深川の街で地域の声を集める
フィールド・スタディーズのコンテンツでは、同大の必修科目(※薬学部は除く)の授業を題材に、フォートナイト内に再現された深川・清澄白河の街を巡り、実在する店舗の女将さんなど地域の住民役へのヒアリングを行いながら、「深川まつり」に必要な知識やアイテムを集めていきます。その後大学に戻り、教員役から出されるクイズに全問正解することでミッションクリアとなる流れです。


コロナ禍をきっかけに広がった「ゲームでの接点づくり」
大学がゲームプラットフォームを活用し始めた背景には、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大による影響があります。当時、対面でのオープンキャンパスが開催しづらくなったことで、多くの大学がメタバースやゲームプラットフォームを使い、オープンキャンパスを代替・補完する取り組みを始めました。
代表例のひとつが東京大学の「バーチャル東大」です。バーチャルSNS「cluster」を活用したこの取り組みは、もともと学生有志のVRサークルが2020年3月の卒業記念イベントに向けて安田講堂前広場を仮想空間上に再現したことがきっかけでした。これが起点となり、同年9月には「高校生のための東京大学オープンキャンパス」で、大学公式の企画として採用されることとなりました。
また、東京農工大学工学部も2021年、オンラインゲーム「フォートナイト」のクリエイティブ機能を使って小金井キャンパスの主要エリアを再現し、卒業生のお笑いコンビ「ハマカーン」を案内役に、オープンキャンパスの一企画として「バーチャル・キャンパスツアー」を実施しました。当時はコロナ禍で来場型の開催そのものが制限されており、ガイド付きツアーへの参加には事前申込みが必要で、対象は受験を検討する高校生でした。
ただし、こうした初期の取り組みの多くは、あくまで「その年のオープンキャンパス」という特定の入試広報イベントの枠内で企画・実施されたものであり、大学の入試スケジュールと結びついた取り組みという性格が強いものでした。
変化が見え始めたのはここ最近のことです。武蔵野大学は2024年3月に経営学科のコンテンツをリリースし、特定の入試イベントに紐づかない、恒常的にアクセスできるコンテンツとして展開を始めました。福岡大学も、創立90周年を記念し、父母後援会の協力のもとフォートナイト内にキャンパス全体を再現するという、国内でも例のない規模のメタバース企画を実施しました。工学部建築学科の学生や教員が建物の再現に協力するなど、大学の資産を生かしながら、特定のオープンキャンパスの日程に紐づけず、いつでも自由に訪れられる形で公開している点が特徴です。
両校に共通するのは、ゲームの中に「本格的な学びの場」を丸ごと作り込むというよりも、すでに多くの中高生・若年層が日常的に時間を使っているプラットフォームに大学側から出向き、軽い気持ちで触れてもらえる「小さな体験の場」を作る。そして「オープンキャンパスの一企画」という位置づけから離れ、期間限定のイベントとしてではなく、いつでもどこでも接点を持てる場を用意するという発想です。
パンフレットやオープンキャンパスのように「その大学を知りたい人」だけを対象にした手段とは違い、ゲームをきっかけに偶然大学の存在を知る、というライトな接点を日常的に作れる点が特徴です。コロナ禍で始まった「オープンキャンパスの代替」という発想から、「中高生・若年層がすでにいる場所に、大学の側から日常的に出向いていく」という発想へと、この数年で少しずつ進化してきたと言えそうです。
認知拡大・ファン獲得の一手としてのゲーム活用
大学の広報活動は従来、オープンキャンパスや学校説明会、パンフレット、メディア露出といった手段が中心でした。ここへきてゲームプラットフォームという新しい接点が加わってきた背景には、大学を取り巻く構造的な変化があります。日本私立学校振興・共済事業団によると、2024年度に定員割れとなった私立大学は全体の59.2%にのぼり、調査開始以来過去最多を更新しました。さらに中央教育審議会の推計では、大学進学者数は2026年度をピークに減少局面へ転じるとされています。進学を意識する前の中高生とどう接点を持つかは、多くの大学にとって単なる話題づくりではなく、中長期の経営課題そのものになりつつあるのです。
その意味で、フォートナイトのようなゲームプラットフォームの活用は、進学意欲の高い層への直接的な訴求というより、まだ大学選びを意識していない中高生に対して、「なんとなく知っている大学」「ちょっと面白そうな大学」というイメージを育てる、いわばファン獲得型の施策と位置づけられます。武蔵野大学が今回、経営学科に続いてデータサイエンスと地域探究という2つの学びのテーマを追加したことも、単発の話題づくりにとどまらず、継続的に接点を積み重ねていこうとする姿勢の表れと見ることができそうです。
デジタルネイティブ世代である中高生に向けた、遊びの延長線上での大学との“接点づくり”は、少子化が進む中での新たな広報手法として、今後も他大学に広がっていく可能性があります。武蔵野大学の今回の取り組みは、その先行事例のひとつとして注目されそうです。