年明けの出社日、何気なく始まるはずだった日常が、思わぬ形で揺さぶられる──そんな経験をした人も少なくないのではないでしょうか。休暇明けに職場へ足を運ぶと、いつも顔を合わせていた同僚の姿がなく、後になって退職を知る。この現象は近年、「あけおめ退職」と呼ばれ、静かに、しかし確実に広がりを見せています。
マイナビの調査では、約3割の人がこの「あけおめ退職」を経験したことがあると回答しており、決して一部の特殊なケースではないことがうかがえます。背景にあるのは、年末年始という時間がもたらす“内省”の機会です。仕事から一歩距離を置き、自身の働き方や将来について考え直す中で、これまで見過ごしてきた違和感が、退職という決断へと結びついていくのです。
休暇が気づかせる、働き方への違和感

「あけおめ退職」の背景には、休暇中に生まれる“内省”の時間があります。家族や友人と過ごす中で、仕事の話題が自然と上り、自身の働き方を客観的に見つめ直す機会が増えます。その過程で、「このままで良いのだろうか」「将来の姿が思い描けない」といった疑問が浮かび上がるのです。
重要なのは、こうした退職が突発的な衝動によるものではない点です。評価への不満、成長実感の欠如、職場での対話不足など、長期的に蓄積されてきた課題が、年末年始という節目で「決断」へと変わる。それが「あけおめ退職」の実態だと言えるでしょう。
退職の根底にある「評価」と「成長」の問題

退職問題の根底に「評価・報酬・裁量・成長感・対話の密度」といった要素が長期的に積み重なっていることが示されています。特に注目すべきなのは、中小企業の約6割が人事評価制度を導入していないという現状です。(日本人事経営研究室が実施した調査より https://jinjiseido.co.jp/)
その理由として最も多かったのが、「業績に影響しないから」という認識でした。しかし、評価の基準が曖昧なままでは、社員は自分が何を期待されているのか分からず、努力と結果が結びつかない状態に陥りやすくなります。その積み重ねが、やがて離職という形で表面化している可能性は否定できません。
人事評価制度がもたらす“見える効果”

一方で、人事評価制度を運用している企業では、明確な効果も確認されています。調査によれば、「従業員のモチベーションが向上した」と回答した企業は45.0%、「昇進・昇格の実施がスムーズになった」は37.0%、「賃上げができた」は36.0%にのぼりました。
これらの結果から、人事評価制度は単なる管理ツールではなく、社員の成長実感や将来像と密接に結びつく仕組みであることが分かります。評価を通じて役割や期待が明確になることで、社員は自分の仕事に意味を見出しやすくなり、結果として企業全体のパフォーマンス向上にもつながっているのです。
離職を防ぐために求められる組織の姿勢
離職の連鎖を食い止めるためには、人事評価制度だけでなく、経営計画との連動が不可欠であると指摘されています。会社の方向性や目標が共有され、それが日々の行動や評価に反映されてこそ、社員は自分の将来を組織の中で描くことができます。
数字だけを管理するのではなく、社員一人ひとりが「ここで働き続ける意味」を感じられる環境を整えること。それが、結果として安心感や向上心を生み、離職防止につながっていくのです。
「あけおめ退職」が投げかける問い
「あけおめ退職」は、年明けに突然起きる出来事ではありません。日々の評価や対話、成長実感の積み重ねが、年末年始という節目で可視化された結果です。人が辞める理由を個人の問題として片付けるのではなく、組織の仕組みや姿勢として捉え直すことが、これからの企業には求められています。評価と経営の在り方を見直すことは、離職対策であると同時に、組織が持続的に成長するための重要な一歩なのではないでしょうか。