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佐賀発・共創型の伴走支援で全国を巻き込む「SAGA INNOVATORS BASE」の狙いと未来の可能性

旅館運営やコンサルティング事業など、多角的な事業を展開しインパクトスタートアップとして注目されている株式会社Mirai Resort(ミライリゾート)。同社は現在、佐賀県のスタートアップ支援事業「SAGA INNOVATORS BASE」の企画・運営に携わり、佐賀発スタートアップの起業家・事業家たちの挑戦を熱く支援しています。

地方の個性と都市部のネットワークを掛け合わせ、ローカルに深く入り込むことで見えてきた、地域経済の“未来”とイノベーションの“兆し”は何なのか。

現場に寄り添う伴走支援の裏側や、首都圏とローカルをつなぐ“翻訳者”としての役割、そして2026年3月5日開催の「SAGA MIRAI FES」に向けた展望など、佐賀発イノベーションの現在地について、株式会社Mirai Resort 代表取締役の三倉氏、同社秘書課長で「SAGA MIRAI FES」プロジェクトマネージャーの若林氏に話を聞きました。

ローカル×イノベーションの可能性。Mirai Resortが実践する伴走支援の形

── まずはMirai Resortが展開する事業概要を教えてください。

三倉氏:
Mirai Resortは、私が代表を務める4期目のスタートアップです。現在3つの事業を展開しており、会社のメイン事業となる旅館事業では、2023年に長野県阿智村の老舗旅館「昼神温泉 四季の織 はなや」を事業継承し、「テクノロジー×おもてなし」をキーワードにチームで運営を行っています。

昼神温泉は出湯50周年を迎えたばかりの比較的若い温泉郷ですが、「日本一星空が綺麗な村」で知られる大自然豊かなエリアということもあり、近年注目されている観光地となっています。

最初は旅館運営の経験が全くない状態からのスタートでしたが、「お客様にどこで価値を感じてもらえるのか」をチームで少しずつ学んでいき、今では売上・稼働率ともに安定した運営ができつつあります。

また、コンサルティング事業では、上場・非上場を問わずさまざまな企業の経営支援を行っており、「徹底した伴走支援」が大きな特徴です。

一見すると旅館・コンサル・美容サロンという異なる領域での事業展開に見えますが、大きなビジョンのもと、長期的な視点では各事業を相互に連携させながら補完し合い、シナジーを生み出していくことを目指しています。

── 佐賀県が取り組む「SAGA INNOVATORS BASE事業」はどのような枠組みなのでしょうか。

三倉氏:
佐賀県は47都道府県の中でもスタートアップ支援やアクセラレーションにかなり早い段階から力を入れてきた地域の一つです。例えば、「公益財団法人佐賀県産業振興機構 さが産業ミライ創造ベース(以下、RYO-FU BASE)」の事業の1つである、DXの駆け込み寺こと佐賀県産業スマート化センターは、全国から視察が絶えないほど注目される存在になっています。

こうした背景のなか、「SAGA INNOVATORS BASE(以下、SIB)」は、RYO-FU BASEが行うスタートアップ支援事業で、その企画・運営を私たちが受託し、共に取り組んでいます。

SIBの主な事業内容は、過去の支援先企業の成長や市場拡大を支援する「グロース投資事業」と、2026年3月5日に開催される、スタートアップや企業DX担当者が登壇するイベント「SAGA MIRAI FES」の企画・運営の2つの柱があります。

グロース投資事業は、RYO-FU BASEがこれまでに支援をしてきた県内事業者を中心に、数十を超えるプレイヤーとのコミュニケーションの中から、20社近い事業者に対して、事業のグロースに資する伴走支援を行っています。

業務委託費の中から「協業支援金」という建て付けでハンズオン型の投資を実施し、既存事業にドライブをかけるための施策や、新規事業の仮説検証等を進めてきました。この枠組みにより、単なる壁打ちや定例のミーティングにとどまらず、資金投下を伴う仮説検証を機動的に実施できるのが特筆すべき点です。

例えば、新規事業のアイデアは良いものの、どうやって売上・利益につなげるかわからない。というケースに対しては、支援金を活用して営業代行業務の一部をアウトソースし、反応率やコンバージョン率を検証できます。このような実証データがあれば、本格的にマーケティング予算を投下する際の戦略が具体化されるため、支援金がシードマネーとして機能するのです。

また、RYO-FU BASEには、10種類以上の支援事業があります。プレイヤーは自社のフェーズに応じて、多様な支援をワンストップで受けることができ、各フェーズごとに専門性を持つ支援者が伴走する仕組みが整っているのがRYO-FU BASEの特徴であり、強みだと言えます。

作成:株式会社Mirai Resort

佐賀発スタートアップと首都圏をつなぐ”翻訳者”としての役割

── 佐賀県との連携事業で「起業家支援」を行うなかで、意図的に仕掛けている「交流の仕組み」はありますか?

三倉氏:
今回のSIBでは、起業家支援における交流の仕組みづくりについて、より主体的に伴走者である当社にて設計・運用を任せていただいています。そのため、私自身が首都圏に軸足を持ってさまざまなベンチャーやスタートアップ、事業会社などの経営支援を手がけるなかで培ってきた信頼・信用やネットワークを活かし、佐賀県スタートアップの伴走支援を行ってきました。

その結果として、佐賀発スタートアップの独自性やユニークさに、首都圏のプレイヤーが持つノウハウやアセットを掛け合わせることで、まさに予定調和ではない化学反応を起こせており、確かな手応えを感じています。

私たちはこれまで、自身のネットワークを活かし、マーケティングに強い首都圏の企業やプロモーションに長けた経営者などを積極的に佐賀発スタートアップとつないできました。これにより、新たな事業者やソリューションとの出会いが都度生まれていくわけですが、ここで特に重要なのは、“翻訳者”としての役割です。

「首都圏の当たり前≠ローカルの当たり前」とも言われるように、プロジェクトを進める中で、当事者同士で共通言語が揃っていないことも多くあります。

私たちは日常的な伴走支援を通じてスタートアップの課題を深く理解しており、外部パートナーとの間に入って期待値のすり合わせを行うことで、成果につながる伴走支援が可能になるわけです。

このように、中間支援者が介在することで交流が円滑になり、持続可能な良い関係が築けていると思っています。

── 単なるリターン(収益)だけでなく、地域への波及効果や社会実装の可能性などを踏まえてどのように投資先の選定を行っていますか?

若林氏:
投資先選定の大きなポイントは2つあります。まずは、「その事業が地域にとってどれだけ必要か」という社会的意義です。単なる収益性だけではなく、その事業があることで地域の雇用が守られたり、大切にされてきた文化や産業が次世代につながるかを重視していました。

もうひとつは、私たち自身も事業に携わっているからこそ、数字だけでは測れない経営者自身の熱量や意欲も選定の判断軸として大切にしていました。

── 投資を通じて、数年後の佐賀の産業構造をどのように変えたいという「出口戦略」を描いていますか?
作成:株式会社Mirai Resort

三倉氏:
「スタートアップ」というと、Jカーブを描いて最速最短でIPOを目指す企業を想像するのが一般的ですが、実際に地域で支援していると、IPOや会社の急速な成長にはあまり関心がなく、むしろ社会課題解決に時間をかけてでも真摯に取り組みたいという事業者も多く存在します。

もちろん、佐賀県で上場クラスの大企業が生まれることは素晴らしいアウトカムのひとつだと思います。ただ、GMV(総流通額)ベースで例えば同じ100億を目指すにしても、100億企業を1社生み出すのか、それとも「年商10億の会社を10社」や「年商1億の会社を100社」のようにしていくのかによって、経済にとっての意味合いが変わってくる。長期的に見ると、会社の規模が巨大でなくとも、地に足つけて事業を展開する「マイクロスタートアップ」的なプレイヤーが増えていく方が、佐賀県全体の経済基盤がより強くなるのでは、と感じています。

故に、ひとつの巨大企業を作ることだけでなく、「地域の成功総量を最大化する」ことも、ローカルの産業構造の変革において極めて重要だと考えています。そのため、IPOだけをゴールにせず、多様なサイズの成功モデルを佐賀から数多く輩出していきたいですね。

佐賀発スタートアップの挑戦を支えるSIBの支援事例

── 具体的な支援事例をいくつかご紹介ください。
作成:株式会社Mirai Resort

三倉氏:
大学発スタートアップや伝統文化、ソーシャルイノベーション、HR系ソリューション、不動産、旅館業など業種・業態は多岐にわたりますが、ここではいくつかの事例を紹介したいと思います。

株式会社Dessun

企業の採用支援や人材コンサルティング、RPO(採用代行)を手がけており、直近ではAIを活用したBtoBの採用・人材育成ソリューションを新規事業として立ち上げました。

その中で、「仮説検証を高速で回したい」というニーズに対して、SIBの枠組みでセールス支援を実施しました。その結果、新たな商談機会や受注のチャンスが広がり、グロース投資としての効果を定性・定量の両面で活用できた事例となりました。

https://www.dessun.jp/

株式会社ソロン

株式会社ソロンは、「住まいに関するすべての「こまった」を「よかった」へ」というビジョンを掲げ、地元密着型の不動産事業を展開しているほか、ノーコードツールを活用し、さまざまなアプリケーションを開発しています。

こうしたなか、ブランディング支援の一環として、ワークショップの企画・運営や、企業としての方向性や姿勢がより伝わるように、コーポレートロゴを刷新した事例になっています。

https://solon-saga.co.jp/

有限会社お茶の嬉野園、有限会社金照堂、自園自製直売 鶴製茶、有限会社菓心まるいち

お茶や、有田焼、和菓子などの製造・販売を行う老舗企業の4社は、ECサイトや店舗直販が販路の中心となっていますが、新たな販路や収益機会を広げるべく、佐賀城を貸し切ったインバウンド観光客向けのお茶会体験を実施し、SIBとしてプロモーション映像の撮影・制作を支援させていただきました。

複数のプレイヤーが協働し、お互いの販路や収益の拡大につながるような取り組みもまた、ローカルイノベーションの重要なチャレンジだと思います。

https://ureshinoen.base.shop/
https://www.kinshodo-shop.co.jp/
https://tsuruseicha.com/
https://www.kashinmaruichi.co.jp/

次につながる出会いを生む変革の祭典「SAGA MIRAI FES」が目指すもの

── 「SAGA MIRAI FES」を開催するに至ったのはどのような背景がありますか?

若林氏:
「SAGA MIRAI FES」は、「佐賀からはじまる変革の祭典」というコンセプトのもと、佐賀で生まれている多様な挑戦や変化を、より開かれた形で共有することを目指しています。挑戦を発信するだけでなく、具体的な次のアクションにつながる接点を生み出す場として位置付けたことが、今回の開催に至った理由です。

これまでは佐賀市内の体育館で開催してきましたが、今回は登壇企業・起業家にとって、「次に繋がる出会いや機会が生まれる場とは何か」をあらためて考え、IT企業や投資家が集まる福岡を舞台に選びました。

佐賀という地域にしっかりと根ざしながらも、視線は常に未来へ向けて、これからの時代に必要とされる価値や挑戦を生み出していく。

そんな取り組みが交差し、新しい可能性が生まれる場になればと考えています。

── フェスをきっかけに「佐賀で挑戦したい」と思ってもらうための仕掛けづくりで意識していることは?

若林氏:
当日は、インプット・アウトプット・ネットワーキングが自然につながる構成を意識しています。 スタートアップやDX推進企業によるピッチや、1年間の挑戦を称えるアワード、 そして登壇者や来場者がフラットに交わるミートアップまで“聞いて終わり”ではなく、次のアクションにつながる時間を大切にしています。

なかでも、伊藤 雅仁氏による基調講演は大きな見どころのひとつです。 IPOを目指す起業家の伴走支援を続けてきた立場から、 スタートアップが直面するリアルな壁や意思決定について語っていただく予定です。 挑戦のフェーズにいる方にとって、多くの示唆を持ち帰れる時間になると思います。

── 最後に今後の展望について教えてください。

三倉氏:
当社は、長野県での旅館事業や伴走支援特化型のコンサルティング事業を通じて、山口周さんが提唱する「経済合理性限界曲線」の外側にプロットされる、いわゆる「取り残されがちな課題」に向き合ってきました。仲間とともに解決できる課題の範囲を広げていく挑戦を続けるなかで、今回の取り組みを通じて感じたのは、ローカルの課題にこそ大きな可能性があるということです。

作成:株式会社Mirai Resort

そのために、SIBのような仕組みを通じて、首都圏を中心とした多くのプレイヤーに「佐賀県応援団」として仲間になっていただき、「ローカル発だからこそできるミライ」に向けて、首都圏の知見とネットワークを最大限に活用し、イノベーションの創出に取り組んでいきます。

その大きな足がかりとして、2026年3月5日に開催する「SAGA MIRAI FES」へ足を運んでいただければと嬉しく思います。リアル開催のほか、オンラインでも参加できますので、詳細は以下のリンクをご確認ください。

「SAGA MIRAI FES」 オフィシャルサイト
https://sagamiraifes.com/

左:株式会社MiraiResort 代表取締役 三倉 信人氏
右:同社 社長室 秘書課長 若林 千紘氏