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Z世代の早期離職はなぜ起こる? カギは「経営計画」と連動した人事評価制度による”成長実感”の醸成

近年、Z世代社員の「退職代行」利用者が増えるなど、若手社員の離職問題に注目が集まっています。特に中小企業にとって、人材の確保と定着は喫緊の経営課題です。こうした状況に対し、会社のビジョンを実現する人材育成を可能にした「ビジョン実現型人事評価制度」を開発し、独自の経営理論を確立した日本人事経営研究室株式会社(代表取締役:山元浩二氏)が2025年10月9日、「中小企業で働くZ世代の離職を防ぐ人事課題解決策」と題したラウンドテーブルを開催しました。

ここでは、同社の代表取締役である山元浩二氏によるプレゼンテーションと、実際に制度を導入して成果を上げている企業の事例を交えながら、Z世代の離職要因と、その解決策について詳しくレポートします。

3つの大きな課題:Z世代が会社を辞める本当の理由

ラウンドテーブルの冒頭、山元氏は多くの中小企業が「若手社員(特にZ世代)の退職増加」「雇用の流動化による人手不足」「社員のモチベーション低下」という3つの大きな課題に直面していると指摘しました。

山元氏によると、これらの課題が深刻化している背景には、外部環境と内部環境、2つの大きな要因があるといいます。

【外部環境】いつでも転職できる「ゆる転職」の時代

「今の若者、特にZ世代は、いつでも転職できる環境にいます」と山元氏は語ります。実際に、新社会人の転職サイト登録者数はこの約14年間で31倍に増加。かつては転職すると給与が下がるのが一般的でしたが、今では転職によって給与が上がるケースも珍しくありません。

このような「売り手市場」を背景に、会社への帰属意識が薄れ、常に情報収集をしながら、辞めたくなったらすぐに転職する「ゆる転職」がトレンドになっています。この外部環境が、Z世代の早期離職を後押ししている一因です。

【内部環境】入社後の「理想と現実のギャップ」

もうひとつの要因は、組織の内部環境です。同社が実施した調査では、Z世代の約7割が入社後に「思い描いていた職場とのギャップ」を感じたことがあると回答しています。

その理由として、「思い描いた業務内容と違った」に次いで、「成長機会がなかった」が多く挙げられました。さらに、約6割のZ世代が「今の会社では成長の機会が十分に与えられていない」と感じているというデータも示されました。


「私が特に衝撃を受けたのは、『成長の機会が与えられている』と『とても感じる』と答えた人がわずか1%しかいなかったことです。企業側は成長支援をしているつもりでも、社員側には全くそう思われていない。ここに大きな認識のギャップがあります」(山元氏)

この「成長できない」という感覚は、給与や待遇への不満の根底にもあると山元氏は分析します。


「給与への不満の裏側には、評価制度への不満があります。自身の評価結果とその理由がきちんと伝えられ、それが給与にどう反映されるのかが明確であれば、この不満は圧倒的に減るはずです。納得感のある評価こそが、やりがいや働きがいにつながるのです」(山元氏)

解決策は「経営計画」と「人事評価制度」の連動にある

これらの課題を解決する鍵として、山元氏が提唱するのが「ビジョン実現型人事評価制度」です。この制度の最大の特徴は、「経営計画」と「人事評価制度」を完全に連動させて運用する点にあります。

多くの企業では、会社の事業計画と社員の人事評価は別物として扱われています。しかし、それでは組織の目標と個人の目標が乖離し、社員は目先の評価や給与しか見えなくなってしまいます。

「ビジョン実現型人事評価制度」では、まず経営計画で会社の理念や将来のビジョン(いつまでに、どこまで成長するのか)を全社員に明確に示します。その上で、人事評価制度を連動させることで、社員一人ひとりが「会社の成長の中で、自分はどのように成長し、キャリアを築き、将来的にどれくらいの年収を得られるのか」という具体的なキャリアプランを描けるようになります。


「この仕組みによって、社員は5年後、10年後の自分の姿を具体的にイメージできるようになり、日々の仕事に高いモチベーションとやりがいを持って取り組むことができます。結果として、組織全体のベクトルが揃い、推進力は倍増どころではないほどの成長を実現できるのです」(山元氏)

この仕組みは、採用活動においても絶大な効果を発揮します。面接の段階で経営計画や評価制度を具体的に説明することで、会社の価値観に共感し、成長意欲の高いZ世代だけが集まるようになります。入社後のギャップも最小限に抑えられ、定着率の向上につながるのです。

【成功事例①】株式会社ELternal「若手の台頭で昇進者が続々誕生」

実際に「ビジョン実現型人事評価制度」を導入し、成果を上げているのが、神社仏閣のコンサルティングなどを手掛ける株式会社ELternalです。同社は2022年4月に制度を導入しました。

ラウンドテーブルにオンラインで登壇した株式会社ELternal 代表取締役 小久保隆泰氏。

導入前の課題

同社の代表取締役である小久保隆泰氏は、導入前の状況を次のように振り返ります。


「2020年に創業し、業績は順調に伸びていましたが、ベンチャー企業として日々の売上を上げることに必死で、経営計画や人事評価制度は未整備の状態でした。社員数が増えるにつれて、それぞれの向かう方向がバラバラになり、組織としての一体感に課題を感じていました。組織をさらに成長させるためには、明確な目標設定と評価基準が必要だと考えました」(小久保氏)

導入後の変化:キャリアパスの明確化がモチベーションを向上

制度導入後、同社では社員のベクトルが揃い、生産性が向上。特に大きな変化として、小久保氏は「若手の台頭」を挙げます。


「キャリアパスが明確になったことで、若手社員のモチベーションが格段に上がりました。『これを達成すれば、こうなれる』という道筋が見えたことで、意欲的に仕事に取り組むようになり、実際に昇進者が次々と誕生しています。制度導入後すぐに一般社員から執行役員になった30歳の社員や、新卒入社からわずか1年半〜2年で主任に昇進した25歳の男女社員もいます。やる気のある社員が正当に評価され、さらに意欲を高めるという好循環が生まれています」(小久保氏)

【成功事例②】鈴木電設株式会社「社長が本来の仕事に集中できる組織へ」

続いて、熊本県で建設業や飲食事業などを展開する鈴木電設株式会社の事例が紹介されました。同社は2021年に制度を導入し、若手社員の定着に成功しています。

ラウンドテーブルにオンラインで登壇した鈴木電設株式会社 代表取締役 鈴木健太氏。

Z世代との関わり方:「察してほしい」を捨て、言葉で伝える文化

同社の代表取締役である鈴木健太氏は、Z世代との関わり方について「特別扱いせず、自然体で接すること」を大切にしていると語ります。


「Z世代だからと構えることはありません。ただし、『後出しはしない』『はっきり言う』『察してほしいと思わない』そして『求めることは明確に伝える』という4つのことを徹底しています。例えば、『始業10分前には来て準備をしてほしい』といったことも、曖昧にせず言葉でしっかり伝えます。人事評価制度は、単に評価をする場ではなく、社員に成長してほしいという思いを伝えるコミュニケーションの機会だと捉えています」(鈴木氏)

導入の背景と活用法:「社長1強」からの脱却

制度導入の背景には、「社長である自分に意思決定が集中する『鈴木健太・1強』の状態から脱却したい」という思いがありました。


「以前はすべての評価を私が行っていたため、社員が社長に忖度する文化がありました。そこから脱却し、社員同士が育て合える組織にするため、上司の役割を明確にすることが必要でした」(鈴木氏)

同社では制度を活用し、月1回、役職グレード別の勉強会を開催。会社の求めることや評価基準について対話を重ねることで、社員一人ひとりが自身の現在地と目標を常に確認できる環境を整えています。

導入後の変化:離職が減り、社長は新規事業に全力投球

制度導入後、社員同士が高め合い、成長を喜び合える組織文化が醸成され、離職は大幅に減少しました。特に3年以上勤務した社員の定着率は非常に高いといいます。


「役割が明確になったことで、私は新規事業の開発といった社長が本来やるべき仕事に全力投球できるようになりました。社員が作ってくれた時間で、5年後、10年後の会社の未来を創っていく。この好循環が生まれたことが最大の成果です」(鈴木氏)

中小企業の未来は、社長の決断にかかっている

Z世代の離職問題は、単なる待遇改善だけでは解決しません。彼らが求めているのは、自身の成長を実感でき、将来のキャリアを描ける環境です。

そのためには、会社の未来を示す「経営計画」と、個人の成長を支援し正当に評価する「人事評価制度」をしっかりと連動させることが不可欠です。この仕組みを構築し、運用していくことは、組織に一体感を生み、生産性を飛躍的に向上させます。

山元氏は最後に、「日本経済の99.7%を占める中小企業が変わらなければ、日本の未来はない。その変革をリードするのは、中小企業の社長自身です」と力強く語りました。Z世代の活躍なくして企業の成長はあり得ません。彼らの力を最大限に引き出し、共に成長していくための組織づくりは、今まさに経営者に求められています。