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経産省、福島浜通り地域の新たな魅力を創出する取り組み「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト×東京国際映画祭 スペシャルトークショー~福島浜通りの今と未来~」を開催!

経済産業省は、福島浜通り地域の新たな魅力を創出する取り組みとして、「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト(通称:ハマカル)×東京国際映画祭 スペシャルトークショー~福島浜通りの今と未来~」を開催しました。
本プロジェクトへ賛同する犬童一心監督をはじめ、福島浜通りの視察に訪れた映画監督やプロデューサー、そして俳優・アーティストとして活躍するのんさん、特別ゲストに山田洋次監督が出席し、福島浜通りの今と未来を考える会となりました。

芸術や文化が福島復興を加速させていく

冒頭では、本プロジェクト「ハマカル」を推進する北村 渉さん(経済産業省 福島芸術文化推進室)が登壇。映画をはじめとした「文化・芸術」を通じ、福島浜通り地域の新たな魅力を創出するプロジェクトの省内取りまとめを担当し、イベントの趣旨・概要を話しました。

「3.11の東日本大震災以降、福島県浜通りの地域復興のため、JR常磐線の全線開通や『再生可能エネルギー先駆けの地』としての取り組みなど、ハード面においては着実に再起を図るためのアクションを行ってきました。一方、未だ故郷に帰還できない地域住民の方々もいるなかで、芸術や文化が福島復興を加速させるのではという思いのもと、経産省の若手職員から勇姿で募り、プロジェクトを組成しました」

プロジェクトを進めていくなかで、映画関係者とのご縁に繋がり、今回のイベント開催に至ったそうです。

次いで西村経済産業大臣のVTR出演の後、板橋基之さん(映画監督)が手がけた福島浜通りの視察ムービーが披露されました。

歴史、震災の歴史や現在の街並み、現地に住むさまざまな人たちの声が紹介され、12年間の“記憶”が詰まった映像にまとまっていました。また、浪江町に整備された「福島ロボットテストフィールド」や、映画を通じた地域活性化に励む「なみえコミュニティシネマ」、南相馬市小高区の起業家誘致に取り組むコミュニティ施設「小高パイオニアヴィレッジ」、富岡町でワイン生産を行う「とみおかワインドメーヌ」など、福島浜通り地域の今がわかる内容でした。

日本人なら「福島」に関心を寄せないわけにはいかない

この後、特別ゲストである山田洋次監督が壇上に上がり、プロジェクトに対する所感を述べました。

「日本人なら福島に関心を寄せないわけにはいかない」

開口一番、山田監督はこのようなメッセージを伝え、「福島のことにできることがあれば、なんでも協力したいと思ってプロジェクトに賛同した」と語りました。また、ハマカルというプロジェクトの作り方に対しても、好意的に捉えていると言います。

「経産省の事業と言われると、“お役所仕事”のような感じがしましたが、ハマカルは同じ志を持つ仲間が有志で集い、横の繋がりを持ってチームを作っているのが面白いと思いました。まさに、『組織』ではなく『運動』として発足しているのが非常に興味深い。そう感じています。福島のためにも、これからさらにプロジェクトを広めていく必要があり、遠い夢として抱いているのが『日本初の国立撮影所を福島に作る』ことです。壮大な夢の実現のためには、映像関係者がどんどん参加し、運動規模を大きくしていく必要があるでしょう」

映画関係者が思い描く「福島浜通りの印象」

イベントの後半には、メインコンテンツのトークセッションが実施されました。

福島浜通りの視察に参加した犬童一心さん(映画監督)、小川真司さん(映画プロデューサー)、山戸結希さん(映画監督)、渡部亮平さん(映画監督)のほか、のんさんもセッションに加わり、視察の感想や福島浜通りの今と未来を語り合う時間となりました。

まずは視察を通して感じた「福島浜通りの印象」について、各登壇者が感想を述べました。

渡部さんは「視察に行く前は、映画監督として関わっていいべきなのか。とてもハードルを感じていましたが、犬童さんから機会をいただけたことで、『もっと福島浜通り地域に関わってもいい』と思えるようになりました」とし、ニュースやドキュメンタリーで見る姿とは異なり、実際にその現地へ行って初めてわかること、感じさせられるものがあることを知れたのが、大きな収穫だったようです。

山戸さんは「お会いする人の美しい言葉や洗練された語り口がとても印象的だった」と話します。

「自分の話す言葉と社会をどう結びつけていけばいいのか。震災当時はまだ10代だった方も、今では一人ひとりが自分の内面にある感情を“リアルな語り”として表現することは、とても貴重だと気づきました。今だからこそ『映像として語りを記録する』ことが大事になるのではと感じています」

小川さんは2018年に福島浜通り地域に仕事で訪れた際は、放射線量を調べながら撮影していたそうです。

それが、視察であらためて訪れて気づいたのは「景色が様変わりし、新しい息吹が芽生えていること」でした。

「新しい建物が立ち、双葉駅の駅舎が変わるなど、当時では考えられないくらい、街並みが変わっていました。また、会社員生活を辞め、ゼロからのスタートが切れる最適な地として、福島浜通り地域を選んだドローンアーティストの方が出てくるなど、すごく希望を感じたように思います」

犬童さんは、2017年に福島浜通り地域を訪れた際は「除染作業が真っ只中で、荒涼とした風景が広がっていた。それはまるで、ディストピアのSF作品を見ているようだった」と語ります。

犬童さんは、2017年に福島浜通り地域を訪れた際は「除染作業が真っ只中で、荒涼とした風景が広がっていた。それはまるで、ディストピアのSF作品を見ているようだった」と語ります。

「その時に出会ったある男性の『この土地はゼロだから、これから何か始める人にとっては都合がいい』という言葉がとても印象的でした。西部劇のような物語の始まりというか、“開拓者精神”が伝わってくる感じがして。視察で小高パイオニアヴィレッジに行ったら、志を持ってビジネスや自分のやりたいことに取り組む人がだいぶ増えてきている印象を持ちました」

震災という惨劇は風化していく。映画として記録に残す必要性

続いては、「映像・映画の力を通じて浜通り地域で何ができるのか」というトピックのもと、映画業界関係者らによる議論が繰り広げられました。

「映画業界の人にとって、作品づくりの機会や刺激が得られる場にしていくことが大事になります。また、現地に滞在して作品制作を行うアーティスト・イン・レジデンスは若い映画作家をサポートする仕組みになるのではと思います」(犬童さん)

小川さんは「震災風景の映像はすでに撮れず、『浅田家!』でも当時の資料や証言をもとに構成している」とし、次のように意見を語りました。

「映画は個人の作業ではなく、集団で作らないとできないもの。福島で映画業界の人が集まるようになれば、福島に住む地元の人も映画に参加できるでしょう。映画は当時の感情を思い起こさせ、観る人を疑似体験に誘うものであり、文化的な財産として残していくこと。持続的な取り組みにしていく必要性があると感じています」

山戸さんは、映画監督としてカメラを向ける以上、「当事者の苦しみや傷をえぐる暴力性との葛藤が拭えなかった」と吐露します。

「そのような心配がありましたが、当事者の方からの『震災という惨事は時代とともに風化してしまう。だからこそ、そんな遠慮はせずに映像として残すことが大事になる』という言葉にハッとさせられました。映画というずっと記録に残るものを、福島の現地に住む人たちと共同作業で紡いでいきながら、プロジェクトを少しでも前に進めていくことが大切だと感じています」

渡部さんは「シナリオハンティングのために、ある地域に足を運ぶことがあり、今回の視察も題材探しを兼ねていた」と述べ、次のような感想を話しました。

「地元のいろんな人と交流していくなかで、すごく興味が湧いたのが伝統行事の『相馬野馬追』に対するモチベーションの高さでした。年に3日間しか行わない祭りのために馬を飼い、仕事やプライベートよりも、年中お祭りのことを優先的に考えているのがとても驚きましたね」

アーティスト・イン・レジデンスの取り組みは長く続けることが重要

一方で、のんさんは2019年に岩手の遠野市に6ヶ月間滞在し、映画の監督から主演、脚本、演出、衣装、編集、音楽など、ほぼ全ての工程を自身で手がけた映画「おちをつけなんせ」を発表しています。

岩手県の伝統的な踊りとして知られる「鹿踊」を作品に取り入れたり、現地に滞在し、その場所に住むことでしか得られない空気を感じたりしたことで、「思い入れが深い場所になった」とコメントします。

「現地に滞在して思ったのは、あらためて地域の方との交流が大事だということ。映画のワンシーンで、人集めに苦労していたところを、地元の料理屋を営む女将さんに頼んだら、一気に人を集めてくれたんです」

トークセッションの後半では、地域に入り込んで、作品を制作するアーティスト・イン・レジデンスの可能性について、経産省職員と登壇者らで意見交換が行われました。

本取り組みにおいては、2週間~4ヶ月という柔軟性を持たせた期間を設けていますが、期間が短いと地域との交流や相乗効果が生み出せないのではという懸念もあります。

その点について、山戸さんは「福島は一定期間、生活が奪われていた時期があり、その生活を取り戻そうとする人々ので営みや思い、活力などを感じるには、それほど滞在期間は関係ないのでは」と見解を示しました。

また、渡部さんは「福島浜通り地域に関わってみたいけど、どう関わっていいかわからないと感じているクリエイターとの接点を作るため、紹介制のような仕組みを取り入れたらいいと思う」という提案を行いました。

犬童さんは「地元に住む人の生活の視点を紹介していくこと」や「地元と作家が関わる体制づくり」が肝になると述べ、歴史を積み重ね、長く続けることが大切だと説明しました。

小川さんも呼応するように、「その土地に行き、何かしようと考えた際には地元の人と繋がることが大事になる」と話しました。

福島浜通り地域の活性化に映像や芸術文化が寄与し、映画監督やクリエイター、業界関係者がその地に集まってくれば、新たな産業創出や地域ブランディングにもつながることでしょう。ハマカルの今後の動向に注目です。

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