全国でRSウイルス感染症の報告数が増加しています。例年は秋から冬にかけて流行のピークを迎えますが、近年は春から夏にかけても流行が拡大するなど、感染の季節性が崩れつつあるのが特徴で、特に0歳から2歳の乳幼児の感染が目立っており、注意が必要です。
RSウイルスは、咳やくしゃみによる飛沫や、ウイルスが付着したおもちゃなどを介して感染が広がります。主な症状は発熱・鼻水・咳といった風邪のような症状で、大人の多くは軽症で済みます。しかし、赤ちゃんにとっては非常に危険な感染症です。
2歳までにほぼ100%の子どもが一度はRSウイルスに感染するといわれており、特に重症化のリスクが高いのが生後6カ月未満の赤ちゃんです。感染すると細気管支炎や肺炎を引き起こし、呼吸が苦しくなって入院が必要になるケースも少なくありません。時には命に関わる危険もあります。保育園や幼稚園に通うきょうだいがいる家庭や、早産・低体重で生まれた赤ちゃんは、特に感染リスクが高いと考えられています。
治った後も安心できない? RSウイルスの長期的なリスクと家庭でできる予防策

RSウイルスは、治った後も安心はできません。近年の研究では、乳幼児期にRSウイルスに感染して重症化した子どもは、将来的に喘息を発症するリスクが約21倍にもなることが報告されています。つまり、RSウイルスは一時的な病気にとどまらず、その後の生活の質にも影響を与える可能性があるのです。
感染力の強いRSウイルスから赤ちゃんを守るためには、まず家庭内での対策が基本となります。
●こまめな手洗いや手指のアルコール消毒
●咳などの症状がある家族のマスク着用
●おもちゃやドアノブなど、赤ちゃんが触れる場所の定期的な消毒
●症状がある家族は、できるだけ赤ちゃんとの接触を控える
これらの基本的な対策に加え、赤ちゃんをより積極的に守るための新しい予防策として、今「母子免疫ワクチン」が大きな注目を集めています。
「母子免疫ワクチン」とは?
「母子免疫ワクチン」とは、妊娠中のお母さんがワクチンを接種することで、お腹の赤ちゃんにRSウイルスに対する抗体をプレゼントする、という新しい仕組みの予防策です。

■ワクチンの仕組みと効果
妊娠中にお母さんがワクチンを接種すると、体内で作られた抗体が胎盤を通じて赤ちゃんへと移行します。これにより、赤ちゃんは生まれたその瞬間からRSウイルスへの抵抗力(免疫)を持った状態でいることができます。
この免疫効果は生後6カ月ごろまで持続するため、重症化リスクが最も高い時期の赤ちゃんを感染から守ることが期待できます。
■接種のタイミング
接種が推奨される期間は、妊娠24週から36週です。この時期に接種することで、赤ちゃんに十分な抗体が移行します。
■安全性と費用
このワクチンは臨床試験で安全性が確認されており、主な副反応は注射した部位の痛みや頭痛、筋肉痛など、一般的なワクチンと同様のものが報告されています。これらの症状は数日で軽快することがほとんどです。
費用は医療機関によって異なりますが、3〜4万円前後が目安で、原則として自己負担となります。しかし、近年では独自に費用の一部または全額を助成する自治体も増え始めています。お住まいの自治体の最新情報を確認してみてください。
赤ちゃんの命と未来を守るための新しい選択肢

毎年のように流行するRSウイルスは、乳幼児に大きなリスクをもたらします。感染そのものの危険性だけでなく、将来の喘息リスクにつながる可能性も指摘されており、赤ちゃんの未来にも影響を及ぼしかねません。
これまでは手洗いや消毒といった対策が中心でしたが、「母子免疫ワクチン」の登場により、生まれてくる赤ちゃんを守るための新しい、そして非常に有効な選択肢が生まれました。お母さんから赤ちゃんへ贈る、最初のプレゼントになるかもしれません。
これから出産を控えている方は、ぜひ一度、かかりつけの産婦人科の先生に「母子免疫ワクチン」について相談してみてはいかがでしょうか。