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「今年こそは運動不足解消だ!」その一念発起が膝を壊す!?

膝関節ケアの権威がシニアに薦める「頑張らないトレーニング」とは?

全国から患者が訪れる膝関節ケアのスペシャリストが提言。まず歩く

新年といえば何かを始めるにはもってこいの季節。「毎年三日坊主で終わってしまうが、今年こそは、去年できなかったダイエットや運動不足解消に取り組もう!」と燃えている方も多いのではないでしょうか?

でもちょっと待って。膝の病気に詳しい関町病院(東京都練馬区)の丸山公院長は(整形外科医)は「急にジョギングやジム通いを始めて、膝を傷め来院する人が増えているので注意が必要です。変形膝関節症など、膝が気になる人は、とくに冷え込む2月、3月を前に、脚の筋力を付けるためにまず平らな所を歩くことから始めましょう」とアドバイスしています。まずは、動けるトレーニングが大切で正しく歩けることが膝トラブル予防の基本だと解説します。

トレーニング慣れしていない人。急な深めのスクワットに要注意

急に運動して膝を傷める人はかなり多いのが実情です。「急に運動をしたら駄目。徐々にやっていくことが大事です。よくあるのは『じゃあスクワットをしよう』と、立った姿勢から膝を深く曲げるディープスクワットをしてしまうケースです。
スクワットで傷めるのは膝の上下の関節の間ではなくて、お皿の裏側と大腿骨の間、『膝蓋大腿関節』と呼ばれるところです。普通の病院で撮る2枚のエックス線写真では映らず、専門的な特殊な角度から撮らないと、傷めたお皿の裏側は映りません。それで痛み止めだけの治療になってしまいます」

人工関節は最終手段。まずはそうならないために主治医とケアを

「お皿の裏が痛くて腫れていれば、それが引くような治療。水があればそれを抜いて、私の場合はステロイドを使って腫れが引いてからヒアルロン酸という軟骨保護剤を使います。お皿は大腿骨の上に乗っています。体重がかかると圧力がかかり、曲げるとさらに圧力がかかります。曲げて体重をかけたときが痛いので、正座したときの状態が一番悪いのです。例えば、平らな所を歩くのはなんでもなくても階段になると急に痛くなります。階段の昇り降りが痛くて、正座ができなくなるのが典型的です。そして膝の曲げ伸ばしがだんだん悪くなります」
変形膝関節症など、膝治療の専門医である丸山院長は「人工関節は最後の手段」として、運動や装具、栄養療法など、いろいろ組み合わせ、一番よい方法を選んでいます。「膝が腫れている場合は、すぐに整形外科の受診を。腫れはなく、少し痛いくらいなら、安静にして冷やして湿布を当てればよいでしょう。長期的には、体重がある人は少し減らす必要がありウオーキングで脚の筋肉を鍛えることも大事です。体重を減らそうと、勝手にダイエット(食事制限)をして運動すると骨粗しょう症になる恐れがあるので要注意です。骨粗しょう症になると膝の変形が進み、トラブルを助長してしまいます」

通院を始めても、すぐに痛みがよくならない。根気よくケアを

「こうなったのは、急になったのではなく、長年のツケが回ったのだ、と思って少しずつ治していくことが大事です。だから、スクワットのように膝に体重をかけることはしないで、まず寝転がって脚を持ち上げるだけでいいのです。30度の角度で1分間保ってみましょう。すごく大変なことが分かります。脚の筋肉だけでなく、同時に腹筋も鍛えられます。ラジオ体操をするのも体にいいことです。体に無理がかからず、体が硬くなっているのが分かります」

まずは「丸山流ウオーキング」からスタート。横隔膜を引き上げてインラインで歩く
靴の外側が減っていたりドタドタ階段を下りたら注意信号

丸山院長は「何か運動を始めたい方はウオーキングだけでいいと思っています。無理に筋トレをする必要はありません」と〝丸山流ウオーキング〟を勧めています。

「これにはちょっと工夫があって、歩きながら横隔膜を引き上げながら、インラインで歩きます。つまり、靴底の内側を使って、かかとからつま先に重心を移しながら歩くのです。こうすると、脚の内側の筋肉が鍛えられます。力を抜くと必ずかかとの外側から着地して歩くことになってしまいます。靴底の内側を使って意識して歩く。きれいな歩き方になります。そのとき同時に、おなかを締めると内臓の中の筋肉が締まります。すると、太腿の内側の内転筋が締められるので、O脚が防げます」

ダラダラではなく意識して歩けば1日30分で十分

「1日30分も歩けば、それで十分筋トレになります。私は歩く時はそうしています。だから筋トレはしていません。歩幅が大きくなって、傍から見ると格好よく見えます。横隔膜を上げるには、おへそをへこますのがコツ。最初は話ができませんが、慣れてくると話をしながら歩けるようになります」と膝トラブルは関節トラブルではなく軟骨トラブル。早めのケアが大切です。

「たとえば大相撲。かつては“膝のケガを克服した力士が奇跡のカムバックを果たし、場所を大いに盛り上げた”なんてこともありましたが、一方で膝トラブルで引退を余儀なくされる力士が数多くいるのも事実。これは力士特有の激しい稽古や立ち合いによる膝の使い過ぎが問題です。半月板や軟骨が壊れてしまうと、1カ月ぐらい休んでも、とても治るものではありません。骨はある程度戻りますが、軟骨は戻らないのです」

今は再生医療が盛んになってきましたが、膝の軟骨を再生する治療は非常に難しく、下手をすると人工膝関節置換手術より、よほど難しいそうです。
「軟骨の培養自体は簡単で、数十年前から可能です。しかし、培養した自分の軟骨を損傷した形状に合わせて貼り付けるのは難しい。それを生着させるのが、また難しいのです。損傷した軟骨を治すのに今は滑膜を取ってきて、膝をガバッと開けて、培養した軟骨を滑膜で縫い付けます。非常に手間がかかると同時に生着までに安静が必要で、生着はしても、実際に衝撃に耐えられるようになるには時間がかかります。皮膚なら縫い付ければいいだけですが。軟骨をパッと貼り付けられないから治療がとても難しいのです。狭い範囲の欠損なら、取ってきて植え付けることができます。しかし、直径1センチのものが3個ぐらいまでで、本当に狭い範囲に限られます」自分の血液を採取して関節内に注射する多血小板治療法も盛んにおこなわれていますが、痛みや炎症を改善することができても、軟骨は再生されません。膝関節の軟骨は厚さ2ミリぐらいしかなく、歳を取ると1ミリぐらいに薄くなってしまうそうです。

コラーゲン・トリプペチドも有効。軟骨を守る栄養も有効

丸山院長は「日常生活で軟骨を守るには、階段を降りるときなど、なるべく、つま先から着いてゆっくりかかとを降ろすようにソフトランディングを心がけることが大事です。ドタドタ歩いたり、階段を降たり、走って階段を降りたりしては駄目。肥満にも気を付けて。栄養面では、軟骨の構成成分の生産を促進するサプリメントのコラーゲン・トリプペチドの摂取が有効なことが研究で分かってきています。既に膝痛がある人は、他の療法と併用することでも治療効果があります」と話しています。

ぜひこの機会にまずは正しく歩くことからスタートして運動不足の解消をしてみては?

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